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東京地方裁判所 昭和52年(モ)14765号 判決

債権者 秩父産業株式会社

右代表者代表取締役 染谷博平

右訴訟代理人弁護士 玉田郁生

同 保野昭一

同 細野静雄

債務者 大蔵工業株式会社

右代表者管理人 高木新二郎

右訴訟代理人弁護士 大塚一夫

同 太郎浦勇二

主文

一、債権者と債務者間の東京地方裁判所昭和五二年(ヨ)第六八一一号債権仮差押申請事件について、同裁判所が昭和五二年九月九日になした債権仮差押決定を認可する。

二、訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、債権者

主文と同旨

二、債務者

主文第一項掲記の仮差押決定を取消す。

本件仮差押申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

第二、当事者の主張

一、申請の理由

1.被保全権利

(一)債権者は、道路資材の販売、道路付随の一般土木工事等を業とする会社であり、債務者は、土木建築請負、建築機械賃貸等を業とする会社である。

(二)債権者はかねてより、債務者と継続的取引関係にある。債務者につき昭和五〇年一二月二三日、東京地方裁判所から整理開始の命令がなされた。右命令以前の債権者の債務者に対する債権は右整理手続に服している。

(三)その後債権者は債務者に対し、昭和五一年七月から昭和五二年一月までの間に、別紙取引一覧表記載のとおり、合計金八三八万五、六七三円の売買代金債権、請負代金債権を取得し、債務者から右内金四九二万五、〇〇〇円の支払いをうけた。

債務者の経理は、月末締めの翌月末払いである。

従って、債権者は債務者に対し、右残代金三四六万六七三円及びこれに対する昭和五二年三月一日より同年八月二三日まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金債権一〇万一二二円を有している。

2.保全の必要性

債権者は債務者に対し、右債務の支払いを再三請求したが、債務者は言を左右にしてその支払いをしない。

債務者は、前記整理開始の結果、後記債権の他、見るべき資産がない。

3.本件仮差押決定

債権者は債務者を相手に、東京地方裁判所に対し、前記被保全債権の執行を保全するため、別紙仮差押債権目録記載の債権について仮差押の申請をしたところ、これによる昭和五二年(ヨ)第六八一一号事件において、同裁判所は債権者に金七〇万円の保証を立てさせたうえ、同年九月九日、右申請を認容する旨の仮差押決定(以下本件仮差押決定という。)を発した。

本件仮差押決定は正当であるから認可されるべきである。

二、認否

被保全権利の存在は争う。

三、債務者の主張

債務者につき、昭和五〇年一二月二三日、東京地方裁判所から整理開始の命令がなされた。整理手続中の会社に対しては、全ての強制執行・仮差押等は禁止されている(商法三八三条二項)。

これはその執行債権・被保全権利が整理債権(いわゆる旧債)であるか又は新勘定債権であるかを問わない。

1.商法三八三条二項は全ての強制執行・仮差押等を禁止しており、執行債権・被保全権利が新勘定債権である場合を区別していないから文理解釈からも当然である。

2.商法は整理の対象となる債務を区別しておらず、整理開始前の債務はもとより、整理開始後のいわゆる新勘定債務も減免の対象となし得る。

3.整理会社は裁判所の監督下において整理手続を行っている会社であるから、たとえ新勘定債権に基くものであっても、強制執行等を許すと、整理の進行に重大な支障となる。

4.新勘定債権に基く強制執行等を禁止するとなると、債権者の保護に欠けるおそれが全くないとはいえないが、裁判所の監督権の発動を以て適正な処置を採れば足りる。

5.整理手続には会社更生法六七条の如き定めがない。

よって本件仮差押は違法であるから取消さるべきである。

四、債権者の反論

整理中の会社財産に対する、新勘定債権に基く強制執行・仮差押等は商法三八三条によって禁止されるものではない。

同条によって禁止される強制執行・仮差押等は、整理の対象となる債権に基くものに限られる。

しかして、右整理の対象となる債権の範囲については、商法には、会社更生法一〇二条のような規定はないが、会社が整理開始後に負担したものはこれに含まれないことについては異論がない。

本件について言えば、債務者について昭和五〇年一二月二三日整理開始の命令がなされた後、昭和五一年四月三〇日、その管理人から整理計画案が提出され、同年五月一八日その実行を命ずる旨の決定がなされている。

本件仮差押の被保全債権は、同年七月以降発生した債権であって、右整理の対象となった債権とは別個の、右実行命令後に発生した債権である。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、被保全権利について

1.甲第一号証(弁論の全趣旨により真正な成立が認められる。)、第二号証の一ないし二七(証人山田安雄の証言により真正な成立が認められる。)、証人山田安雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、申請の理由1の(一)ないし(三)記載の各事実を一応認めることができる。

2.債務者の主張及びこれに対する債権者の反論につき判断する。

商法三八三条二項の規定により、整理開始の命令のなされた会社財産に対する仮差押が禁止されるのは、整理の対象となる債権を被保全権利とするものに限られると解するのが相当である。

甲第三、第四号証(成立に争いがない。)によれば、債務者について、昭和五〇年一二月二三日整理開始の命令がなされた後、昭和五一年四月三〇日、管理人によって、整理計画案が作成・提出され、同年五月一八日、東京地方裁判所からその実行の命令が出されていることが認められる。

しかして、前認定のとおり、債権者の債務者に対する本件被保全債権は、同年七月一九日以降、昭和五二年一月一〇日までの間に発生したものである。

そうすると、本件被保全債権は、整理の対象となる債権とはいえないから、これをもって債務者の財産に対し仮差押することは、商法三八三条二項の規定により禁止されるものではない。

右の点についての債務者の主張は直ちに採用の限りでない。

二、保全の必要性

甲第一号証(前出)及び弁論の全趣旨によれば、申請の理由2記載の事実が一応認められる。

三、本件仮差押決定

当裁判所が本件仮差押申請について、さきに申請の理由3記載のとおりの本件仮差押決定を発したことは本件記録上明らかである。

四、よって、本件仮差押決定を認可することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本慶一)

〈以下省略〉

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